chayarokurokuroの雑記ブログ

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【レザークラフト】ヌメ革の鉄染め(灰色)の経年変化と、なんちゃってブライドルレザーの自作

残暑見舞い申し上げます。🍉



3ヶ月前の2023年5月に、ヌメ革を鉄媒染液で灰色に染める実験の記事を投稿しましたが、あれから革はどのように変化したかアップしておきます。
それから、ブライドルレザーという馬具用の牛革があるのですが、イギリスのタンナーが作っているものは白いモヤのかかった表情をしている特徴があります。あの雰囲気の出るワックスを自作しましたので、ついでに披露したいと思います。



ヌメ革の鉄染め(灰色)の3ヶ月後の経年変化

鉄をお酢で溶かした鉄媒染液でヌメ革を灰色に染めたものが、3か月経ってどのように変化したか画像をアップします。



  • 鉄染め(灰色)3か月前

3か月前

左側のガッツリ灰色(3か月前



  • 3か月後

鉄染め3か月後

この画像の革は、直射日光の当たらない、部屋の机の上などに放置しておいたもの。
右上の黒い革はスピランの黒で染めたものです。左上のは3か月前に作った鉄染め革のコインケースに自作ワックスを塗ってブルーム(白いもの)を湧かせたもの。
その下のハギレ類はガッツリ灰色に染めたものだったが、経年変化で茶色く変色している。2か月経った頃から茶色が目立ってきた。「鉄染め」で画像検索すると出てくるのと同じ感じ。黒でもなく灰色でもなく茶色でもなく、独特な色。ムラが出るように染めた方が面白いかも。
匂いについては約1か月でほぼ消えますけど、今は全くないレベル。錆び臭さも、お酢臭さもない。革の厚みによるかな。ちなみに一つを除いて全部1.0mm。



なんちゃってブライドルレザーを自作する

ブライドルレザーとは?

馬の頭に付けるベルト類の馬具を日本語で頭絡(とうらく)、英語でbridle(ブライドル)という。ブライドル用に作られた革をブライドルレザーといい、特にイギリスで作られるものが見ため的に特徴があり有名です。激しく高級で、タンナーによっては異常に手間の掛かる作り方をした頑丈な牛革。

ブライドルレザーで作られた長財布

画像は塩原レザーさんの↓のページより勝手に拝借いたしました。ありがとうございますた。 ブライドルレザー 長財布(J.ベイカー社/ブラック色) | 塩原レザー



上の画像の製品はイギリスの老舗タンナーJ & F J BAKER社(ベイカー社)製の革で作ってあり、色はもともと黒ですが、白っぽいモヤみたいなものが全体的に掛かっています。その白いモヤをブルームといい、革にとってどういう働きがあるのかは分かりませんが、仕上げ工程で染色後の表面にグリース(グリス)と呼ばれる蝋や油脂を塗ったものの成分の一部が結晶化したもののようです。

ブライドルレザーは分厚い牛革をピット槽にて植物タンニンで鞣してあります。強度を上げるために蜜蝋や牛脂、魚脂、植物油などを混ぜたものを浸透させてあり、木の板のように固いとか(触ったことがないのでわからない)。
本来は馬具用の革であってバッグや財布を作る用ではないのですが、アタオカなハイレベルな革職人たちは最高レベルの硬質で超高価なこの牛革を使って小物を作ります。結構ムズいらしい。



イギリス製ブライドルレザーは白いブルームが出ているのですが、アメリカのタンナーであるWickett & Craig社ウィケット&クレイグ社)やHermann Oak社(ハーマンオーク社)の作るイングリッシュ・ブライドルという名前の革はブルームが出ていません。アメリカの熱くて乾いた砂漠の気候ではイギリス流のレシピだと合わない等の理由により、グリースの成分を変えてあるためにブルームが出ないのだとか。



参考として、Wickett & Craig社のイングリッシュ・ブライドルを使用しているアメリカの革工房のチャンネル

youtu.be

ブルームは出ていないがブライドルレザー。ピット鞣し革のツルっとプリっと感と、艶消しだが上品な艶と、しっとり感。マジでかっこいい。



ブライドルレザー用グリースの中身

製革方法は各タンナーの企業秘密であり、詳しいことはインターネットを検索してもあまり分かりません。ブライドルレザー用のグリースについても各タンナーごとでレシピが異なり、鞣しや仕上げ製法も違うそうである。

グリスの中身については凡そ、蜜蝋、タロウ(牛脂やラード等の動物脂)、魚油脂、動・植物油などのようです。蝋や脂は常温で固体なので温めて溶かして他と混ぜ、グリス状にしたものをベテラン職人が手作業でブラシにつけて床面と銀面に塗りこんでいく。
半年以上寝かせると白くサラッとした表面になる。



レザークラフトをやっている人は蝋引き糸を触っているので、蜜蝋がどのような触感か知っています。ベタベタです。何年経ってもベタベタしています。蝋引き糸巻きからブルームが出てきたり、サラサラした触感になることもありません。
革の表面に蜜蝋を塗っても同じことで、ふき取らない限りいつまでもベタベタします。
ブライドルレザーのブルームはグリスを塗ってから半年~1年以上熟成させないと出てこないそうです。しかも乳頭層(銀面)にある程度ブルームとなる成分がある必要があると。
蜜蝋や油脂を塗ったくっているにも関わらず、サラッとした表面。何故なんだぜ?

ブルームレザー、蝋引きレザー、ホワイトワックスレザー、フォグレザー

イタリアの植物タンニン鞣し革にゴーストアラスカブッテーロのburro、または日本のロロマといった銘柄のものがあります。それらはイギリスのブライドルレザーのように革の表面に白っぽいものがついている。

調合をしたグリスを塗りこんでブルームが浮き出ているのもあれば、単にパラフィンワックスなど白い蝋を液体化させてスプレーで吹き付けただけのものもある。それぞれの目的は知りません。防水か装飾か。

「ブルームレザー」「蝋引きレザー」「ホワイトワックスレザー」「フォグレザー」などと呼ばれています。馬具のブライドル用の革ではないのでブライドルレザーとは呼びません。
表面が白っぽくなるので、染料により染色した植物タンニン鞣し革を顔料を使わずパステルカラーで可愛らしく表現でき、ヌメ革の加工方法の一つとして個人的にはとても魅力的に映ります。
使っている内に白いモヤが取れて来ますので、経年変化を楽しめる。

あの白いモヤが作りたい。



白いモヤを出すには

ワックスが主原料で塗って速やかに白くなる系で、市販されている製品では、
クラフト社「レザーワックス」、Lized社「ブルームワックス」、塩原レザー社「ブルームの素」など幾つかある。
ああいうやつを自分で作りたいわけです。



  • 一番簡単そうなのは、パラフィンワックスを熱で溶かして、そのまま革に塗り付ける方法。

白い蝋燭を湯煎(ゆせん)で溶かし、少し冷えた所で歯ブラシなどに付け、革の銀面に速やかに塗る。
蝋がムラになるのと、事前に溶かす手間が掛かるので、この方法はイマイチおすすめできない。



  • 次に試したのは、蝋燭を有機溶剤で溶かして塗る方法。

蝋を液体化させたいのです。
ワックスは種類にもよるだろうが、大抵はアルコールなどでは溶けず、有機溶剤で溶ける。有機溶剤は揮発するので蝋成分のみが残る。
靴クリームに有機溶剤が入っている理由も、ワックスを硬化させず常に軟膏状でムラなく塗れるようにする為だろう。
有機溶剤はホームセンターナフコの「ラッカー薄め液」を使った。蝋燭を砕いて有機溶剤を入れてジェル状になるまで混ぜる。
塗れることは塗れるが、臭いのと塗り方によって革の染料が取れてしまうので、難がある。イマイチ。



  • 試してないがワックスを乳化させる方法

lized社「ブルームワックス」の中身はパラフィンワックス・エマルジョンです。固形パラフィンを界面活性剤などで乳化させたものだと思う。水を混ぜられるのでスプレーで革に吹き付けできそう。防水性は乳液なのでたぶん低い。YouTubeの風刻工房さんのチャンネルでもそのようなことを言われていた。
合成界面活性剤なしでワックスを乳化させるには、化粧品を自作している人たちの情報が使えそう。「パーム乳化ワックス」というものが売られている。蜜蝋とパーム乳化ワックスとホホバオイルなどを混ぜると上質な化粧用乳液が自作できる。
その他、卵黄レシチンや大豆レシチンを使う方法。ワックスが溶けるかどうかわからないのと、革にカビが生えそうなので気が引ける…


【追記】
エマルジョン系塗料や接着剤はいったん乾燥して固まると、水に濡れても再び乳化することはないらしい。ということは、パラフィンワックスエマルジョンは防水性があるということで。塗る量の問題ですね。
【追記おわり】



  • グリースの中身を(推測で)混ぜてみる方法

ブライドルレザーのグリスは、蜜蝋とタロウ(獣脂)、魚脂、動物油、植物油などを混ぜたもののようですが、具体的な中身や比率は企業秘密により不明。
蜜蝋は協進エル社やセイワ社が売っている。精製した白いものが良いかな。100gで1000円以内で買える。
タロウは牛脂かラード(豚脂)を使うとして、料理用の精製ラードがスーパーで売っている。雪印などのメーカーからマヨネーズの容器みたいなものに300mlほど入って300円前後。
魚油脂は入手が困難っぽいので無し。
動・植物油は、牛脚油(ニーツフットオイル)と菜種油(キャノーラ油)で試した。



上の中身で比率を変えながら実験した。温めには湯煎ではなくホットボンド用のポットを使った。液体のオイルの比率によって冷えた時の固さが変わる。
重要なことですが、ラードを多めに入れるとブルームが出やすい。更にカルナバ蝋を入れるともっとブルームが出やすい。融点の高い蝋が少し入っている必要がある。
さらに言うと、(今回の目的では)蜜蝋は入れる必要はない。もういっちょ、牛脂やラードの成分である脂肪酸が入っていればブルームが出るので、ラードを別のもので代用した。



と、あまり詳しいことを書くと面白くないのでこのぐらいにして、作ったグリスとそれを塗った画像を上げましょ。



メルトポットで白いモヤ用ワックス自作中

栗キントンやマッシュポテトぐらいの硬さ。



自作ワックスを塗ったくった

油脂と蝋の比率にもよるが塗った直後は透明で、30分以内で画像のようにブルームが出てきて白くなる。画像の右上の方にダイソーのクロム鞣し牛革やスエードに塗ったものがある。
材料の比率が悪かったり下地に既にオイルを塗っていたりすると全然白くならなかったり、ベタベタしたり、粉っぽかったり、取れやすかったりする。

吟スリ革と名刺入れに白いモヤワックス

青みがかった大きい方の革は、1.5ミリ厚ヌメ革をスピランの空色と青を混ぜた色で染色後、表面を紙やすり120番でヤスっている。その上に自作ワックスを塗ってアイロンで溶かし込んだ。アイロンは一番低温で短時間で済ますこと。熱が入り過ぎると革に部分的にシワが入って硬化し戻らなくなる。

右の名刺入れはスピランの黒で染色、コバ処理剤にバスコの125番焦げ茶。指先に菜種油を少しつけて自作ワックスを練り、水みたいになったものを名刺入れに塗ったくって放置してたら真っ白くなっていた。若干粉っぽく、水溶き片栗粉を塗ったみたい。もう少し革に食いつくような粘りが要る。



白いモヤ接写

結構それっぽい。8割がた自己満足した。



おわりに

今回のワックスの自作にあたっては化粧品メーカーの論文を参考にした。それによると、ヒマシ油やラノリン(羊の油)を混ぜるとブルームが出にくくなるようです。
革用ケア製品のラナパーにはラノリンが、タピールのレーダーオイルやライオン靴クリームなどにはヒマシ油が入っている。製革工程にこれらの油脂はよく使われているようです。ブルームやスピューはカビと間違われるのでそれを避けたいとかいう理由で、もしかすると多脂系の革はブルームが出にくくなる処理がしてあるかも。どうだろう。



以上。