chayarokurokuroの雑記ブログ

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【レザークラフト】クラフト社10本ヒシ目打ち巾2ミリ、刃の加工

クラフト社の10本ヒシ目打ち巾2mm(4mmピッチ)を入手しました。



左の2本目と4本目は以前に東急ハンズ(現・ハンズ)で購入していた4ミリピッチの菱目打ち。
メーカーは覚えていないが柄に「made in Japan」「4」と打刻されている(クラフト社ではない)。

右のは今回入手したクラフト社の菱目打ち10本目巾2ミリ(4ミリピッチ)。
※全て刃を自分で加工済み。紙ヤスリで削っている。



クラフト社の10本ヒシ目打ちを選んだ理由

2本目や4本目の菱目打ちでバッグ用のショルダーストラップなど長い距離に穴を開ける時に大変なので、10本目ぐらいのが欲しいと思っておりました。
いや、ヨーロッパ目打ちでも良いな。しかし高いしなぁ。どうしようか…と悩んでいた…

安価な菱目打ちの欠点として、大きな穴が開き、細い糸を使うとスカスカで格好がよろしくありません。糸の締まりもよくないだろう。それとコバの近くに開けるとコバが波打つ。また刃が磨かれていない為に刺さり難く抜け難い。
菱キリを併用すれば静かに出来るし大穴が開くこともなく綺麗な縫い目に出来るので問題ないのですが、やっぱり目打ちを使う方が安定感があり綺麗で、穴開けも楽かな。うむぅ…

それで、とりあえず紙ヤスリで2、4本目の抜けを良くするために軽く磨いてみたところ意外にイケるじゃない。よしついでに刃の形状も変えてやれッ!エイヤッ!
と、菱キリをフラットに加工する要領でやってみたら、エレガントなステッチ風で非常によろしい感じに。

それじゃ10本目も菱目打ちで良いんじゃないか?ってことで、「10本目で、日本製かつ、品質が良さげで、価格を抑えたもの」という条件からクラフト社のものを選びました。日本製かどうかは知らんけど。
8本目でも良かったが値段がそこまで変わらないようなので欲張った。2700円(税込)ぐらいでした。

「菱目打ちの刃の本数が増えると刺さり難くなる」とは色んな所で言われているので覚悟はしていましたが、確かに刺さりにくい。革の厚みが4ミリ以上あるようなものを貫通させる時は結構力を入れて何度も叩く必要がある。
でも、2~3ミリ厚なら大して苦もなくイケる。刃がそこそこ磨かれているので抜けは良い。
真っ直ぐ均等に穴が開くので、見た目が綺麗で非常にナイス。裏も真っ直ぐなる。

気になる点として、柄の部分が薄い。通常は刃の多い菱目打ちやヨーロッパ目打ちは太く作ってあります。価格を抑える為に金属の使用量を減らして結果的に薄くなっている等の理由か分からないが少し打ち難い。パワーがガツンと伝わっていかない気がする。柄に筒を通して太くするなどした方がいいかな。



巾2ミリ菱目打ちの刃の対角線の傾斜角度

菱目打ちの対角線の長い方の角度はヨーロッパ目打ちの角度より緩めと言われる。実際に10本目のを測ってみると、

  • 刃の巾: 2ミリ
  • 厚み(菱形の高さ): 約1.6ミリ

よって、tanθ = 1.6/2.0 = 0.8

三角関数タンジェントの一覧表をネットで検索する。0.8になる角度を探す。

こちらのサイト→ 見やすい!三角関数表 - 角度に対する sin, cos, tan の値 によると、「tan(正接)」の39度が0.8098で一番近い。

4ミリピッチの2本目と4本目も同じ厚みと刃巾だったので、右上がりの対角線の傾斜角度はすべて約39度ということがわかった。
ちなみに持っている他のピッチを調べてみると、5ミリピッチの菱目打ち(SEIWA製)は傾斜角がかなり無い。tanθ=0.5くらいで約27度。
3ミリピッチの菱目打ち(クラフト社製)は逆に刃巾も厚みも1.5mmで、tanθ=1で、45度。ヨーロッパ目打ちとほとんど変わらない。



ヨーロッパ目打ちの場合の傾斜角

メーカーやピッチで違うようだが、各々はだいたい全てのピッチで統一してあり、43°~45°くらいになっているかなという印象。岡製作所のヨーロッパ目打ちは50度くらい?の急斜角がついている。たぶん穴が太いのでそう見える。45度くらいか。

エルメスが使っているというフランスのメーカーblanchard(ブランシャール、ブランチャード)のものを調べると、
例えばこちら → Vergez-Blanchard Prick Iron #9 - レザークラフト工具・材料 - LLツール のページに「商品の説明」の一覧表が載っています。その中の一部を抜き出すと、

  • ♯9、3.0mm、傾斜角40°
  • ♯8 、3.38mm、傾斜角40°
  • ♯7、3.85mm、傾斜角38°
  • ♯6、4.50mm、傾斜角38°

ブランチャードのヨーロッパ目打ちの3.38mm~4.5mmピッチと、日本製4ミリピッチの菱目打ちの傾斜角はほとんど同じということが分かる。

ということで、菱目打ちの刃を削れば、ブランチャードのヨーロッパ目打ちのようなステッチに似たものになるはずです。



削った菱目打ちの穴

そういう訳でございまして、菱目打ちを菱キリの加工の如く紙ヤスリで軽めに削って、4.5ミリ厚のヌメ革に穴開けした。

穴はしっかり貫通させた。角ばった菱形ではなく、細長いラグビーボールのような形状になっている。



2ミリ厚のティーポレザーの床革に1ミリ厚のヌメ革を貼ったものに穴開け、ビニモMBTの5番で縫ったもの↓。

裏面のステッチも綺麗になるよう、一応SEIWAの菱キリNo.2(フラットに加工済み)でしっかり貫通させている。
糸はビニモMBTの太さ5番でベージュ色108番に、コロンブスのコバワックスで蝋引きした。これは蜜蝋とカルナバ蝋の混ぜ物で、蝋引きしても糸はベタつかずサラサラしている。見た目も締まって良い。撚りの注連縄っぽさも蝋で少し埋まって緩和され、高級感のある艶が出る。



接写。スマホでスマソ。

十分スタイリッシュな縫い目じゃございませんか?
菱キリだけで開けると、回転方向の角度がいまいち安定せず、ここまで綺麗にならない。腕のせいかww
傾斜角があと6度ほど欲しいとして1万円以上出す価値があるかどうか。

クロム鞣し革にも打ってみる。

姫路産の型押しらしい、手芸用品店で見つけた端切れ。

クロム革はステッチのガイドラインが見えにくく(鉛筆で線をつけた)、開けた穴も見えにくい。綺麗に縫うのも難しい。繊維密度がユルく柔らかい為か、タンニン鞣し革ほど簡単にはエレガントにならない。これは急斜角を付けた方がいいかも。



菱目打ちを削る方法

刃を削ってしまうと元に戻せないので、自己責任でお願いします。

  • 用意したもの
    • 紙ヤスリ 250番、400番、1000番
    • 薄いステンレス定規(15cm、販売元DAISO)

要領は菱キリを薄く削るのと同じ。菱形の穴の左上と右下の鈍角を削る。
紙ヤスリのみ、または薄いステンレス定規の下に紙ヤスリを貼り、狙った鈍角だけを削る。

  • 250番で軽く20回ずつ全ての刃を削る → 400番で20回ずつ全ての刃を削る → 穴開け確認

  • ある程度形ができたと思ったら1000番以上で仕上げ磨き。

という具合で試し打ちしつつ穴の形状の様子を見ながら少しずつ削れば大きな失敗はしない。
気持ち、穴が45度になるように削った。

注意点として、やり過ぎない。軽く削っただけでも意外に穴が細くなる。縫い針が通りにくくなる。
そして刃が薄くなればそれだけ強度が落ちる。菱目打ちの刃は太いので恐らく強度がそこまで高くない炭素鋼を使ってあると思う。薄くし過ぎれば打ったり抜く拍子に折れるかもしれない。
ヨーロッパ目打ちが高価な理由は薄い刃の強度を補う為に強い合金が使われている事がひとつにある。材料費がだいぶん違う。ダイス鋼とハイス鋼でも2~3倍違う。

それからもうひとつ、刃の先端と鋭角部分は削らないこと。穴の長さが短くなるのと穴のセンターがズレてしまう。革に押し付けて印だけ付けたい場合に点が歪んでしまう。



菱目打ちの加工についてはレザークラフトの書籍を出されている勝村岳さんがYouTubeにアップされていますので参考になると思います。電気工具で削ってあります。紙ヤスリの方が安全かな。



締め

ステッチの見た目は、穴の形状や開け方で多くが決まってしまうと思います。細かいピッチや糸が細いほど繊細さが要求される。
そして、たとえ両面斜め縫いなど同じ縫い方をしたとしても、革の厚みや柔らかさ、糸を引っ張る方向とテンションの掛け方、糸の材質などで結構変わる。

カービングを教えている熟練した年輩の革教室の先生が、「生徒さんの中には作品の出来映えが良くないのは道具のせいだ」と考えて次から次に高級な道具を買う人がいるのだと。「そうではなくて腕なのだ」と分からせる為に、あえて安い道具を使って教えているという。



今回、4ミリピッチの菱目打ちの角度がブランチャードのヨーロッパ目打ちの角度と同程度だと分かったことは収穫でありました。
クラフト社の10本ヒシ目打ち2ミリ巾は出費を抑えるにはそんなに悪くない物だと思います、まことに自己満足した。